まっすぐな視線

鬱彼氏とのお付き合い日記

1025 嬉し泣き

謝り合う気まずい空気はもう放置するしかないのかなと諦めかけていた。

本心ではないものの、逃避感情が芽生えて「忘れたい」とすら独り言を呟くようになっていた。

罪悪感が膨らむだけの時間の過ごし方は毒が強い。

しかしそこへ思いがけない展開が起こる。

 

「あいたいなあ」

 

朝、唐突に彼からこんな一言が届いた。

動揺して震えた。

本人が打った言葉?現実?本当に?私に会いたいっていうこと??

 

それがデートのお誘いでないことは瞬時に理解して「行動までは一致しないパターンだとしても嬉しい🥺💗」と即返事を送る。

涙が出た…なんてもんじゃないくらい泣いた。

大声をあげて、わあわあ泣きじゃくった。

不安と寂しさで希望を見失っていた感情が一変した。

彼にも私を求める気持ちがあってまだやっていけるんだと自信を持ち直せて、ただただ安心した。

 

恋焦がれて会いたさが募った故に送られた言葉ではない気はしたけれど、どんなネガティブな解釈をしたとしてもそれは彼の愛情だと思えた。

案の定、具体的に会う約束の話には発展しなかったことを思うとやはりそれは現実味のないものだった。

もしかしたら限りなく0に近い感情かもしれない。

でも私が望むであろうプレゼントとして贈ってくれたならその優しさだけで十分だ。

 

ひとしきり泣き喚いて、食べかけだったかた焼きそばを何とか飲み込んで、仕事をして、お昼寝して、在宅勤務の1日を過ごす。

喜びを噛み締める中で何度も涙がこぼれた。

「会いたい…会いたい…」

一人暮らしの自由な空間で思いの丈を吐き出しながら号泣した。

今すぐ会いに行きたいっていう感覚とは少し違う。

封じなければならない呪いの感情のように思っていたけど、会いたいと思うことが許されたような気がして、解放された気持ちが爆発していた。

辛かった我慢をほどいてくれた安堵の想い。

 

満たされた気持ちで1日を終えて日付が変わる頃、彼からまた連絡がきた。

「おれはなにをしてあげれるんだろう」

 

朝から夜まで私たちは何も言葉を交わしていないけれど、無言の時間にも彼はずっと私に向き合って考えてくれていたような印象を受けるこの「時差で続く会話」が私はとても好きだ。

不安な気持ちのせいでまだどこかで鬱は嘘なのではって思ってしまう瞬間があったりするけど、こうして向き合ってくれる姿勢を受け取ると改めてこちらの姿勢も心穏やかに慈しみモードに入っていく。

真面目すぎる彼。

頑張りすぎてしまうから病気を患ってしまったけれど、その性格はとても素敵な魅力だと思う。

 

そう思ってくれるだけで嬉しいということと、この状況は絶対に変わってよくなっていくから出来ることが増えた時にまた考えようねってお返事をした。

「ごめんなさいほんと」

「じぶんのことなにもできないのにひとのことなにかしてあげれなくて」

最近の彼の発言は殆どひらがなだ。

変換に使うエネルギーすらなく、また漢字でしっかりした文章を書くよりはこの方が今の自分に合っている気がするのだろうか。

私が絵文字を添える時は張り切って相手への印象を意識していることを考えると、やはりこれは心の中から湧き出た感情をそのまま伝えているような表現なのかもしれない。

(当時は重度の脳疲労で文字が読めなくなること、考える能力がい著しく低下することを知らなかった。)

 

会わない前提で彼にして欲しいことを考えてみた。

想像で補っているけど出来ればもっと近況が欲しいということ。

周りの環境や、悩んでることや、症状とか。

それは病気だからではなく好きな人のことを何でも知りたい感情なのだと、彼が初対面で私の苗字を興味津々で覗き込んでいたエピソードなんかを添えて伝えた。

とにかくコミュニケーションが取りたいから何の話題でもいいけど、話すのしんどかったら頑張って待ってるから音信不通の意思表示でも受け止めるよとも言った。

 

スタンプカードでポイントが貯まったら無料で何か貰えたりするのと同じで、今までの誠意や優しさで蓄積された好意による愛着があるから「何もしてないのに」って思わなくていいんだよって例え話をしたり。

今までの愛情なり優しさなり誠意なり、蓄積された好意と信頼がたっぷりあるのだと。

私はあなたのことがだーいすきなのだと。

 

今はとにかく頑張らないこと、自分を甘やかすこと、人にも甘えて楽をすること、したいことだけをすることがお仕事だよ、なんていう当たり前のこともつい書いてしまう。

話を聞いてくれそうなモードと察した途端につい饒舌になり、相手の文字数に対して私は10倍以上送ってしまった。

でもちゃんと全てにすぐ既読がつく。

会話をしようとしてくれているその空気が嬉しい。

 

なんかさ

今全部信じられないって言うか

うまく言えないけどいままでもそういう気持ちあったんだけど割り切れてたというか

いちごのこともどーしてそんなにおれのこと好きなの?って思ったり

うまくいえない

 

と「悩み相談」が打ち明けられたので、張り切って「好き」を説明する。

恋愛に限らず、好きには2種類あると思っているという持論を展開した。

1つは「自分に何かをしてくれるメリットが嬉しい」を好きと感じるケース。

これは期待したことをしてくれなくなったら利用価値がなくなるから好意がすぐ消える。

キャバ嬢が金払いよく後腐れのない都合のいい客を好きと言ったり、出席確認がゆるい教師を楽だから好んだりするようなイメージ。

 

もう1つは「その人の性格や生き方に惹かれる」ケース。

自分に対する扱いが例え雑になろうと嫌われようと、認識すらされない遠い存在であろうと、好きになった人の魅力は変わらないから好意がブレづらい。

アーティストがその典型だけど、私は周囲の好きな人に対してこのケースが多いよと。

2つの要素掛け合わせな部分も勿論あるけど、あなたに対しては後者に比重があるよと説明した。

 

彼は素直に「なるほど」「わかったような気がする」と納得してくれた。

でもオタクは好きなことになると早口饒舌になる悪い癖が出て、好き語りが止まらなくなってしまう(笑)。

過去の彼の言動の可愛いところなんかも指摘しつつ、ちょっとはしゃぎ気味に好きなところを並べていった。

言葉での返事こそないものの、数秒で既読がつくのが何よりのリアクションで、興味を持って読んでくれているのだと感じた。

 

しかし調子に乗った私は、自分が献身的な姿勢でいる理由まで語り始めてしまう。

瀬戸内寂聴の「あなたは苦しんだ分だけ愛の深い人になっているのですよ」という言葉が好きで、傷付いてきた分その想像力を活かしたいと思ってて、誰にでも見返りなく愛をばら撒いたりしないけどあなたのことが大切だから支えたいのだ、などと論じてしまった。

これには既読がつかなかった。わかりやすいな(笑)。

 

最後のは余計だったかなと思いつつも、久しぶりにお話出来たのが嬉しくて満足して眠りについた。

殆ど私の長文だったけど、そのやりとりは2時間も続いたのだ。

(今思えばひらがな症状が出てる脳疲労の中無理させたなぁ…)

聞き出せた情報は僅かだったけど、1日前とは全く違う気持ちにしてくれた彼の思いやりと勇気に感謝。