1105 自分を殺す覚悟が出来た
夢の中で鳴ったインターホンの音で目が覚めて、現実だと思った私は慌ててベッドを出た。
普段は通販の記憶がなければ間違いなく勧誘系なので絶対に出ないのに、一瞬記憶を辿って通販でないことを把握したのに確認に向かったのは「彼が来たのかも」と思ったからだった。
真っ暗なモニターを前に、インターホンが鳴った事実すらないことを知る。
幻聴か…いや、夢だったのか。
あんなにハッキリと大きな音で聞こえたのに…。
そもそも彼がアポなしに突然来るわけがない。
LINEが既読にすらならないのに会う気力があるわけがない。
冷静になれば当たり前のことすら、寝起きの頭では分からなかった。
現実を噛み締める。
1日経っても既読がつかなくて、興味もないし受け入れて貰えなかったんだなとその意味を理解した。
衝動的に伝えたくなってしまったことだったから会話を求めたわけじゃないし、返事が来なくてもよかったけれど、雑談を添えても未読無視されるのは思っていたよりダメージが高い。
私が悪いわけじゃない、彼が悪いわけでもない、全ては病気のせい。
縋る想いで結局今日もネットの海を彷徨っては鬱彼氏の未読無視に対する病識を高めて、脳疲労がいかに深刻で文字を読む気力がなくなっているかを改めて刻み込んだ。
当たり前の展開に落ち込む必要などないし、今はやっぱり静かに待つべきだと学ぶ。
でも頭と心が一致してくれない。
相手にその機能がなくなっているのが分かっても、受け止めて貰えないことは悲しい。
依存心で彼に縋ろうとしてしまう。
ぐったりしては眠り、またすぐに目を覚まし、少し起きてはぐったりしてまた眠る。
私ですらこんな状態なら、彼はもっともっと疲労感が強いだろうと想像は出来る。
そんな状況で連絡がくるのはしんどいのもわかる。
友人から雑談の明るいLINEが来たけど心が重くてそれどころじゃなくて私も少しだけ無視をした。
ほんの数十分だけだけど、通知で大体の内容を把握し、ああ今そういう気分じゃないなってスマホを置いてまたぐったり眠った。
彼はこれと同じなのだろうか。
幸い私は重い腰をあげて返信し、話しているうちに気が紛れたり話を聞いて貰うことで負荷が軽減したので寝た切りのまま1日を終えることはなかったけれど。
私を心配する友人は彼に症状を打ち明けるべきだと言うけれど、どうしてもそれは正解だとは思えなくなった。
共通の知人が1人もいないLINEだけが唯一のライフラインの恋人関係で、別れを切り出されたらもう取り戻せなくなる。
判断力のない罪悪感だけでさよならされたら不本意なんてもんじゃない。
告げるにしても今じゃないと思った。
考えているうちに、今私が苦しいことを告げて楽にして貰おうという気持ちは霞んでいった。
甘えて助けて貰いたいけれど、苦しさは2人の間で反比例してしまう。
今の彼にこれ以上のものを押し付けたら、積載の限度を超えてしまうだろう。
「オムライスとカレーどっちがいい?」
イエスかノーなど2択で答えられることが1番楽
「今日何が食べたい?」
無数の選択肢から自分で考えないといけないのでやや負担が大きい
「お腹すいたね」
相手の意図を探らなければならず、どう返すべきかとても頭を使う
こんなコミュニケーション術を知って、未読スルーになりやすい原理も今までより少し理解出来た。
確かに私も彼の言葉が少ないから必死に想像で補っているし、もっと情報量があれば楽に返せるのに正解が分からなくて苦戦している。
それは相手も同じだったんだな。
たくさんのことを話し過ぎて「で、結局何を告げれば正解なのか」が彼も分からなくなりやすい展開にしてしまっていた気がする。
2択の質問で私の心が満たされるような交流があるだろうかと思うけど、タブーを少しずつ把握していく。
鬱を経験しているのに、理解したふりで何も分かっていなくてごめんね。
寝る間際に、彼の苦しさや不安を考えたらいてもたってもいられなくなった。
「代わってあげたい」と思った。
辛いことは全部引き受けてあげたい。
私は苦しいのも不幸なのも慣れてるから、私の生命なんていっそどうでもいいから、元気になって私を好きでいて欲しい。
好きという感情を失って無気力で生きてゆくであろう彼の存在が悲しい。
私を好きな気持ちを忘れないで。
それが本音ならば、もう本当に連絡をするのはやめようと決意した。
間もなくやってくる2ヵ月の記念日にこのブログの出会いと初デートの日のコピペを送って楽しいことを思い出して貰おうとしていたり、ネイルの写真を送って以前褒めてくれたことが嬉しかったことを伝えようと計画していたけど、どちらも延期にしよう。
中止じゃないんだ、いつか少し症状がよくなってコミュニケーションが取れる日が来るまで今は待つしかないんだ。
「私のことも理解して欲しいのにして貰えない」と叶わぬ願いに振り回されるから苦しくなる。
諦めたら試合終了とは言うけど、人間関係においては押すばかりが正解ではないのはこの年になれば嫌という程経験から学んできている。
叶わぬものは叶わないのだ。
現実問題として、絶望的なら望まないようにコントロールしていくのが健康的なんだ。
さようなら私の期待。
いつかまた解放してあげるから、今はゆっくりお眠り。